萩野亮 / hagino ryo2019年2月23日7 分『ビール・ストリートの恋人たち』が垣間見せるこの監督の高潔さはほんものだと信じたい。いつも前置きが長すぎることをもちろん自覚しているので、今回はさっそく本題から。いや、ちょっと面食らった。バリー・ジェンキンス監督の前作『ムーンライト』とはまるでつくりが違う。 前作は一言でいうなら「省略の映画」であり、きわめて大胆な、そして息を呑むような美しい省略が一本の映...
萩野亮 / hagino ryo2019年2月9日8 分『がんになる前に知っておくこと』を見て知ったこと。『31歳ガン漂流』(ポプラ文庫)という本がある。著者は奥山貴宏。かれはもうこの世にいない。この本の原著が刊行されたのは2003年のことだ。 わたしはこの本が長年気になっていた。この本だけじゃない。かれが遺したすべての本と、かれ自身のことがなんとなく気にかかっていた。それなら...
萩野亮 / hagino ryo2019年2月2日7 分『眠る村』が描く「名張毒ぶどう酒事件」はわたしが育ったすぐそばの集落で起きた。名張毒ぶどう酒事件について知ったのは、いくつのときだったろうか。 昭和36年、もう50年以上も前のできごとである。通常ならば昭和史のいち事件として登録され、とうに忘れさられてもふしぎではない年月が経過している。けれども、この事件はいまだにある生なましさとともに語られるしかな...
萩野亮 / hagino ryo2019年2月1日7 分『サスペリア』(2018)は基礎工事を怠って瓦解した因果応報の建築である。すげー期待していた。いや、海外ふくめ一部の批評家筋からずば抜けて評判がよいらしいことは知らなかったし(というかこのところの映画情勢をまるで把握していない)、とくに原作者であるダリオ・アルジェントやルチオ・フルチなど、往年のイタリアンホラーの愛好家でもないのだけど、試写状がか...